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確率論とデッキ数学

マネー密度・オープニング確率・薄める理論など、ドミニオンの数学的側面を徹底解説

上級者向け 読了目安: 20分

なぜ数学を学ぶのか

ドミニオンは直感的なゲームに見えますが、その裏には確固たる数学が存在します。「なんとなく銀貨を買った」「感覚で金貨を買った」という判断を数値に基づいたものに変えるだけで、勝率は大きく上昇します。

多くの中級プレイヤーは直感に頼っていますが、数学的な思考を持つプレイヤーは次の3つの具体的な優位性を持ちます。

  • 最適なオープニングを事前に計算できる — 礼拝堂と銀貨どちらが良いかを感覚ではなく数値で判断できる
  • 購入タイミングを精密に計れる — 「銀貨か金貨か」を習慣ではなく期待値で比較できる
  • 相手の動きを予測できる — デッキ枚数を数えることで、次ターンに相手がどのカードを引くか推測できる

難しい微積分や行列代数は必要ありません。基本的な割り算と初歩的な確率の感覚があれば十分です。練習を重ねれば、これらの計算はゲーム中に頭の中で自然にできるようになります。


マネー密度

計算式

マネー密度 = デッキの総コイン産出 ÷ デッキの枚数

「総コイン産出」とは、デッキ全カードが1枚ずつプレイされた場合に生み出されるコインの合計です。銅貨は1、銀貨は2、金貨は3としてカウントします。勝利点カードとほとんどのアクションカードは0です。

初期デッキの密度

カード 枚数 1枚あたりのコイン 小計
銅貨 7 1 7
屋敷 3 0 0
合計 10 7

初期密度 = 7 ÷ 10 = 0.70

5枚ドローで期待できるコインは 0.70 × 5 = 3.5コイン です。最初の数ターンで5〜6コインの手札が珍しい理由はここにあります。

属州購入に必要な密度

属州を買うには5枚ドローで8コイン以上が必要です。

  • 8コイン ÷ 5枚 = 密度 ≥ 1.6 が属州購入の期待ラインです
  • コロニーには 密度 ≥ 2.2 が必要です

デッキを強化すると密度はどう変わるか

初期デッキ(銅貨7枚・屋敷3枚)に銀貨・金貨を追加した場合:

追加カード デッキ枚数 総コイン 密度 5枚ドロー期待コイン
なし(初期) 10 7 0.70 3.5
銀貨1枚追加 11 9 0.82 4.1
銀貨2枚追加 12 11 0.92 4.6
銀貨3枚追加 13 13 1.00 5.0
銀貨3枚・金貨1枚 14 16 1.14 5.7
銀貨3枚・金貨2枚 15 19 1.27 6.3
銀貨3枚・金貨3枚 16 22 1.38 6.9
銀貨3枚・金貨4枚 17 25 1.47 7.4
銀貨4枚・金貨4枚 18 27 1.50 7.5

密度1.6に到達するには通常4〜5枚の金貨が必要です。ビッグマネーが「銀貨でサポートして金貨を積む」という方針を取る数学的な理由がここにあります。

勝利点カードの罠

公領(コスト5、0コイン)をデッキに加えるたびに密度が希釈されます:

状態 デッキ枚数 総コイン 密度
金貨4枚・銀貨3枚 17 22 1.29
公領+1 18 22 1.22
公領+2 19 22 1.16
公領+3 20 22 1.10

公領3枚で密度は1.29から1.10に下がり、期待コインは6.45から5.50へ減少します。これが「終盤に勝利点カードを買うほど自分のエンジンが弱くなる自己破壊パターン」の根本原因です。


オープニング確率

5/2 vs 4/3 の分割

最初の2ターンの購入は、銅貨7枚・屋敷3枚の10枚デッキから5枚ドローした結果で決まります。

超幾何分布を用いて、10枚中5枚引いたときに銅貨がk枚来る確率:

ターン1の手札 計算 確率
銅貨5枚(5コイン) C(7,5)×C(3,0)÷C(10,5) = 21÷252 8.3%
銅貨4枚・屋敷1枚(4コイン) C(7,4)×C(3,1)÷C(10,5) = 105÷252 41.7%
銅貨3枚・屋敷2枚(3コイン) C(7,3)×C(3,2)÷C(10,5) = 105÷252 41.7%
銅貨2枚・屋敷3枚(2コイン) C(7,2)×C(3,3)÷C(10,5) = 21÷252 8.3%

オープニングパターンの組み合わせ:

パターン ターン1 ターン2 確率
5/2分割 5コイン 2コイン 約8.3%
4/3分割 4コイン 3コイン 約41.7%
3/4分割 3コイン 4コイン 約41.7%
2/5分割 2コイン 5コイン 約8.3%

極端な分割(5/2または2/5)が起こる確率はわずか16.7%です。圧倒的多数のゲーム(83.4%)が4/3または3/4分割で始まります。

オープニング購入カードはいつ来るか

ターン1・2の後、デッキは12枚になります(元の10枚+2枚の購入)。すでに引いた10枚は捨て山にあり、新しく購入した2枚はデッキの残り2枚のどこかにあります。

ターン3に5枚引いたとき、オープニング購入のカードが少なくとも1枚来る確率:

  • 両方不在:C(10,5) ÷ C(12,5) = 252 ÷ 792 ≈ 31.8%
  • 少なくとも1枚来る:1 − 31.8% ≈ 68.2%
  • 両方来る:C(10,3) ÷ C(12,5) = 120 ÷ 792 ≈ 15.2%

ターン3と4を合わせると、両方の購入カードがほぼ確実に来ます。つまり、オープニングの購入カードの質がゲーム序盤の4分の1を決定します。ターン1に購入した礼拝堂はターン3に68.2%の確率で来るため、すぐに廃棄を開始できます。

オープニングの数学的比較

オープニング キーカードがターン3に来る確率 備考
礼拝堂+何か 68.2% 早期廃棄開始
銀貨+銀貨 両方:15.2% / どちらか:68.2% 安定した密度上昇
銀貨+アクション それぞれ68.2% 戦略依存

廃棄の数学

ストップカードとは

デッキ構築理論におけるストップカードとは、プレイしても追加のカードをドローしないカードのことです。ストップカードはエンジンデッキのプレイ連鎖を中断させます。

ストップカードの例:

  • 銅貨・銀貨・金貨 — コインを生み出すがドローしない
  • 屋敷・公領・属州・呪い — 点数を与えるがドローしない
  • +カードテキストのないほとんどのアクション — 効果をもたらすがドローしない

ストップカードが多いデッキは1ターンで引き切ることができず、多くのプレイ連鎖に依存するエンジンの力を制限します。

廃棄が同時に改善する3つの指標

廃棄は以下の3指標を同時に改善します:

  1. デッキサイズ ↓ — 毎ターンデッキのより多くの割合を引ける
  2. マネー密度 ↑ — 低価値の銅貨・屋敷を除去すると平均手札価値が上昇
  3. サイクル速度 ↑ — 強力なカードがより頻繁に手札に戻ってくる

礼拝堂廃棄の具体的な数値

礼拝堂は1ターンに最大4枚廃棄できます。屋敷3枚と銅貨4枚を数ターンかけて廃棄するシナリオ:

状態 デッキ枚数 総コイン 密度 5枚ドロー期待コイン
初期デッキ 10 7 0.70 3.50
礼拝堂追加後 11 7 0.64 3.18
屋敷3枚廃棄後 8 7 0.88 4.38
銅貨4枚廃棄後 4 3 0.75 3.75

4枚デッキは一見弱そうですが、質の高いカードを追加するだけで密度が急速に上昇します:

追加銀貨 デッキ枚数 総コイン 密度 5枚ドロー期待コイン
銀貨+1 5 5 1.00 5.00
銀貨+2 6 7 1.17 5.83
銀貨2枚・金貨1枚 7 10 1.43 7.14

銀貨2枚と金貨1枚だけの薄いデッキでも毎ターン7.1コインを期待できます — 重要な場面でほぼ毎回属州を購入できる水準です。これが礼拝堂の数学的な力です。

礼拝堂+銀貨 vs 礼拝堂+カントリップ

シミュレーション研究によると:

  • 礼拝堂+銀貨 オープニング:平均 3.03枚 廃棄
  • 礼拝堂+カントリップ(村・市場など)オープニング:平均 3.64枚 廃棄

カントリップは礼拝堂をより多くの手札に引き込むことで礼拝堂の発動機会を増やします。この0.61枚の差は、長期的に約0.61枚多くの銅貨が除去されることを意味し、密度に意味のある改善をもたらします。


デッキサイクル速度

薄いデッキは強力なカードをより頻繁に届ける

20枚と10枚のデッキを比較し、それぞれに金貨が1枚だけ含まれている場合:

デッキ枚数 金貨の割合 5枚ドローで金貨が来る確率 金貨が来るまでの平均ターン数
20枚 1/20 = 5% 1−(19/20)^5 ≈ 22.6% 約4.4ターン
10枚 1/10 = 10% 1−(9/10)^5 ≈ 41.0% 約2.4ターン
5枚 1/5 = 20% 1−(4/5)^5 ≈ 67.2% 約1.5ターン

10枚デッキは20枚デッキと比べて金貨が約1.8倍頻繁に来ます。廃棄の恩恵は密度上昇だけでなく、強力なカードの出現頻度増加にも現れます。

呪いの二重ダメージ

相手の魔女が呪いをデッキに加えると、逆の数学が働きます:

  • 10枚デッキ+呪い1枚 → 11枚:金貨出現率が10%から9.1%に低下
  • 10枚デッキ+呪い3枚 → 13枚:金貨出現率が10%から7.7%に低下

呪いはマネー密度を低下させると同時にデッキサイクルを遅くし、強力なカードが来る頻度を減らします。この二重のダメージが、魔女を使った積極的な呪い攻撃がゲーム中最強の戦略の一つである理由です。


実践的応用

アクションカードか銀貨か

アクションカードを買うべきか判断に迷ったとき、密度をガイドとして使います。

ステップ1:現在のデッキ密度を概算する

ターン終了時などの整理のとき、手札と捨て山の銅貨・銀貨・金貨を数えます。総コイン産出を概算してデッキ枚数で割ります。

ステップ2:各購入後の密度変化を計算する

  • 銀貨を買う:+1枚、+2コイン → 密度が上昇
  • コスト5のアクションカードを買う:+1枚、+0コイン → 密度が低下

例:密度1.00(総コイン=16)の16枚デッキの場合:

購入 デッキ枚数 総コイン 密度 変化
銀貨 17 18 1.06 +0.06
アクション(コインなし) 17 16 0.94 −0.06

アクションカードが銀貨を上回るのは、実質的に2コイン以上の価値を生み出す場合のみです。研究所(+2ドロー・+1アクション)はより多くのカードを引くことで財宝をより多くプレイできるため、実質的なコイン貢献が表面上の価値を超えます。

中盤・終盤のデッキ管理

ゲームを通じてデッキ枚数を追跡する

各ターンの開始時に捨て山の枚数をちらりと確認します。手元のデッキ枚数 = 総デッキ枚数 − 捨て山枚数 − 手札枚数です。

属州購入のたびに密度を再計算する

属州はコスト8、コイン産出0です。購入するたびに密度が下がります:

デッキ状態 購入前密度 属州1枚購入後密度 変化
20枚・28コイン 1.40 1.33(21枚) −0.07
20枚・32コイン 1.60 1.52(21枚) −0.08

密度が1.6を超えた段階で属州購入を始めれば、数回の購入を通じて密度を1.4以上に保てます — 8コインに届き続けるのに十分な水準です。

3山切れと密度

3山切れ(安いカードを積極的に買ってサプライを枯らす)を狙うのは、密度が高く1ターンで複数のカードを買える状態が最も効果的です。密度1.8以上のデッキは+購入と組み合わせて1ターンに2〜3枚のカードを購入でき、ゲームを素早く終わらせられます。


まとめ

数学は見た目ほど難しくはありません。ゲーム中は以下の3つだけに集中してください:

  1. デッキ枚数と総コイン産出をおおよそ追跡する — 密度をその場で概算する
  2. 属州購入に本腰を入れる前に密度 ≥ 1.6 を目標にする — それ以下は財宝を買い続ける
  3. 廃棄でデッキが薄くなったかどうかを確認する — 薄いデッキはサイクルが速く、強力なカードをより早く届ける

最初は時間がかかりますが、何十ゲームも経験すれば「あと銀貨2枚あれば属州を安定して買える」と直感的にわかるようになります。熟練プレイヤーの数学的直感は魔法ではありません — まさにこれらの計算を繰り返すことで体得した結果です。